環境・スポーツ教育領域——アポロ9号の宇宙飛行士が体験した“奇跡の静寂”とは

奇二 正彦 准教授

2022/08/01

教員

OVERVIEW

現代社会が抱えるさまざまな課題を抽出し、豊かな人間性を基盤とし、高度なウエルネス社会の構築に寄与するスポーツウエルネス学。3つの専門領域を柱とし、どのような学びや研究が進められているかをご紹介します。専門研究例として環境・スポーツ教育領域について奇二 正彦 准教授にお話を伺いました。

アメリカの宇宙飛行士に、アポロ9号にも乗船したラッセル・L・シュウェイカートという人物がいます。彼は1分1秒を争う過密なミッションに追われながら船外活動をこなしていたのですが、ある時、機材の故障ですることがなくなり、宇宙の静寂の中に目的もなくぽつんと佇むことになったのです。その瞬間、彼は悟ったといいます。「今ここにいるのは私だが私ではない。眼下に浮かぶ地球に生きている全ての生命、そして地球そのものも含めた我々なんだ」と。

私の研究は、ラッセル・L・シュウェイカートの体験に似ているとも言えます。そのテーマは、山林などの人里離れた自然に身を置き、地球や宇宙の息吹を感じるような自然体験をすると、人はどのように精神的調和や心の平穏を得られるのか。現代は子どもの自殺率が高まっているほか、15~39歳までの死亡要因で自殺が最も高いとされるほどのストレス社会です。この精神的不健康状態から健康を取り戻すための手法として、自然体験は有効なのではないかという仮説を立て、実験を行いました。実験手法としては、本学学生を自然体験(カヌーや登山、星空を静かに仰ぎ見るなど)を行うグループと、野球などの競技スポーツグループに分け、4泊5日の合宿を行うというものです。その後収集したアンケートから分析したところ、精神的調和や心の平穏を得られた人数は、明らかに自然体験グループの方が多いことが分かりました。さらに何によって精神的調和を得られたかを調べてみると、静かに星空を仰ぎ見る体験、魚を自らさばく体験など、複数の体験が大きく関係していることが分かりました。

現代社会に生きる我々は、謙虚な気持ちで宇宙や大自然に触れ、野生の命と肉薄するような機会をほとんど失っています。星空を仰ぎ見た学生からは、「この宇宙に存在する自分とは何か」という実存的な問いに気づいたという声を複数聞くことができました。こうした研究を発展させ、サスティナブルなウエルネス社会の構築に必要なカウンセリング手法やプログラム開発に寄与できればと考えています。

プロフィール

PROFILE

奇二 正彦 准教授

[専門分野]環境教育/[keyword]#環境教育 #ESD #スピリチュアリティ

立教大学文学部史学科卒業後、ニュージーランドのアートスクール、動物カメラマンの助手、環境教育系NPO、環境コンサルティング会
社などを経て、立教大学コミュニティ福祉学研究科コミュニティ福祉学専攻博士課程後期課程修了。博士(スポーツウエルネス学)。

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