松尾 哲矢 教授
(スポーツ社会学)

教員紹介インタビュー

2023/07/18

教員

研究内容

①研究のスタンスと内容

私は、「すべての人がスポーツを楽しめる社会」はいかに構想できるのかをライフワークとして研究しています。
研究の方法としては、社会学の観点から、スポーツ現象・課題の背後に潜む社会的な背景やダイナミズムを明らかにする手法で研究を進めています。そして、そこで得られた研究成果を踏まえて、具体的なスポーツ支援のあり方や方法を考え、スポーツプロモーションの考え方と方法を検討し、提案していくという理論と実践を架橋し、両者間の往還運動に力点を置いた臨床的な研究・実践を進めています。

具体的には、これまで、1.スポーツ競技者のバーンアウト現象に関する研究、これは、大学スポーツ競技者のなかに燃え尽き現象と呼ばれる競技者がかなりの割合でいることを目の当たりにして、これはどういうことなのか、その要因を探り、バーンアウトを防止し、よりよい競技生活に導くことができればとの思いから社会学的に研究を進めました。

次に、2.スポーツ指導者、なかでもボランティアでスポーツ指導に携わっている指導者のうち、一定程度の割合で、スポーツ指導に没頭してしまい、日常生活(家庭、職場、余暇)に支障をきたしていることを調査によって突き止めました。一体どうしてそのようなことになるのか、スポーツ指導への過度没頭と生活支障の関連について社会学的に検討を進め、米国でも同様の調査を実施し、比較検討を行いました。その成果について学会誌のみならず、コーチング関係の雑誌や書籍にて紹介したり、スポーツ指導者を対象とした講演会等でお話したりするなど、スポーツ指導のあり方と方法について具体的な提案を行ってきました。

その後、3.近年、スポーツ競技者のスポーツ意識やスポーツに対する考え方の枠組みが変わりつつあることに着目し、それを学校運動部育ちの競技者と民間スポーツクラブ育ちの競技者という点から比較検討するなかで、スポーツ文化の変容を検討しました。なかでも戦後、学校運動部中心の競技界から、1964年の東京オリンピックを契機として誕生した民間スポーツクラブの台頭と競技界の再編、そして、学校運動部を中心としたスポーツに対する行動様式、意識、半意識として現れるスポーツに対する性向(ハビトゥス)と民間スポーツクラブ文化およびそこで育つ競技者が有する行動様式、意識、性向の相違、そしてその背景にある学校運動部文化と民間スポーツ文化間における正しいスポーツ及び指導の正統なるあり方をめぐる象徴闘争の様相を明らかにしました。その成果は、以下の本にまとめ、2017年度日本レジャー・レクリエーション学会賞を賜りました。
松尾哲矢(2015)『アスリートを育てる〈場〉の社会学: 民間クラブがスポーツを変えた』青弓社

この他、研究と実践を架橋する臨床的研究として、4.スポーツボランティアが新しいスポーツ文化として登場したきたところから、笹川スポーツ財団の調査協力者として、「スポーツライフ・データ スポーツ活動に関する全国調査」に10年以上かかわるなかで、主にスポーツボランティアの動向と特徴について担当し、検討をしてきました。その成果を踏まえ、パラリンピック、障がい者スポーツを推進するうえで、ボランティアの存在は不可欠であることから、パラリンピックのみならず、障がい者スポーツのボランティアの意味と進め方について、平田竹男教授(早稲田大学スポーツ科学学術院教授。内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局長)をはじめ、研究者、ジャーナリスト、パラリンピアン、指導者の皆さんで検討した本を2019年に上梓しました。
松尾哲矢・平田竹男編著(2019)『パラスポーツ・ボランティア入門——共生社会を実現するために』旬報社.

さらに5.実践と直結した研究として子どものスポーツプロモーションに携わってきました。これは、スポーツや遊戯、レクリエーションと子どもの望ましいかかわり方とはいかにあるべきかという問いからはじめ、子どもの運動遊びを通していかに子どもの健やかな育ちが可能になるのか、その理論的検討と具体的なプログラム創りを行ってきました。その成果を以下の本として上梓しました。
また、(公財)日本体育協会(現:(公財)日本スポーツ協会)の子どもの運動遊びプログラム創り、アクティブ・チャイルド・プログラム作成の一員として成果を発表し、その成果に対して、第18回秩父宮記念スポーツ医・科学賞(主催:日本体育協会、共催:読売新聞社、後援:文部科学省/日本オリンピック委員会)奨励賞(「アクティブ・チャイルド・プログラム普及・啓発プロジェクト」)を賜りました。
松尾哲矢(2016)『子どもの体力・運動能力がアップする 体つくり運動&トレ・ゲーム集』ナツメ社.

その他、著書(抜粋)としては、以下のものがあります。
『スポーツ白書』(SSF笹川スポーツ財団)(2017.3)(共著)
『スポーツライフ・データ』(SSF笹川スポーツ財団)(2015.3)(共著)
『新コミュニティ福祉学入門』有斐閣(2013.4)(共著)
『社会教育・生涯学習辞典』朝倉書店(2012.9)(共著)
『よくわかるスポーツ文化論』(ミネルヴァ書房)(2012.1)(共著)
『福祉社会のアミューズメントとスポーツ』(世界思想社)(2010.3)(共編著)
『健康づくりトレーニングハンドブック』(朝倉書店)(2010.1)(共著)
『総合型地域スポーツクラブの時代』(創文企画)(2008.6)(共著)
『変わる日本のスポーツ』(世界思想社)(2008.3)(共著)
『身体感覚をひらく』(岩波ジュニア新書)(2007.1)(共著)
『生涯スポーツ実践論』(市村出版)(2006.10)(共著)
『スポーツ科学事典』(平凡社)(2006.9)(共著)

また研究と実践の往還運動を図ることが重要であるという立ち位置をとっていることもあり、実践の場を大切にしています。以下、現在取り組んでいる実践の一部です。
  • 東京都スポーツ振興審議会 会長
  • 東京都商工会議所 健康づくり・スポーツ振興委員会 委員
  • スポーツ庁スポーツ研究イノベーション拠点形成プロジェクトフォローアップ評価 委員会 委員
  • スポーツ庁健康スポーツ課スポーツエールカンパニー選考委員
  • スポーツ庁委託事業(公財)レクリエーション協会「運動活動改革プランスポーツ・レクリエーション活動部創設事業」 委員長
  • (公財)日本スポーツ協会指導者育成委員会委員
  • (公財)日本スポーツ協会指導者事業推進プロジェクト座長
  • (公財)日本スポーツ協会指導者の在り方検討委員会 委員長
  • (公財)日本スポーツ協会「Sport Japan」編集委員 副座長
  • (公財)日本スポーツ協会国際交流委員会 委員
  • (公財)日本スポーツ協会スポーツ医・科学委員会研究班員
  • (公財)日本レクリエーション協会理事
  • (公財)日本レクリエーション協会資格認定委員会 委員
  • (公財)日本スポーツ・フォー・オール協議会 理事

②現在、どのようなことを研究しているのか

現在の主たる研究テーマは以下のような研究です。

  1. 日本におけるスポーツ指導者制度研究
    2020年東京オリンピック・パラリンピック大会を控え、そのレガシー(遺産)をどのように構築するのか、また成熟社会におけるスポーツをどのように再構築していくのかが問われています。そのひとつに、これからのスポーツ指導者制度のあり方があります。
    わが国のスポーツ指導者制度は公的な制度と民間スポーツ団体による指導者制度がその柱となっています。前者に関しては、保健体育教員とともに1957年の文部事務次官通達によりスポーツ推進委員(旧:体育指導委員)の制度があり、発足以来60年を経ています。
    後者に関しては、例えば、1964年の東京五輪の翌年から始められた(公財)日本体育協会(現:(公財)日本スポーツ協会)の公認スポーツ指導者制度があり、2015年度で50周年を迎えました。その他、(公財)日本レクリエーション協会、(公財)健康・健康づくり事業財団等、さまざまな民間スポーツ団体による指導者制度が併存してきています。
    これらの制度に基づく、さまざまな資格を保有したスポーツ指導者によりわが国のスポーツは支えられていますが、暴力、ハラスメント問題等、指導者にまつわる多様な問題を抱えている状況です。また、ボランティアスポーツ指導者への依存型からプロフェッション—ボランティア併存型への指導者制度の改革が課題となっています。
    そこで、本研究では、スポーツ社会学の立場からわが国のスポーツ指導者制度のこれまでの変遷を振り返り、課題を浮き彫りにしながら総括するとともに、これからの日本のスポーツ指導者制度の再構築に向けた視点と方法について検討しています。

  2. レジャー・レクリエーション研究
    成長社会から、成熟社会の扉を開けた時代において、いかに豊かに生きるかということが、これまで以上に問われています。そのなかにあってレジャー・レクリエーションは、人間が喜びをもって生きるという点からこれまで以上に重要な領野となってきています。しかしながら、歴史的経緯としては、余暇善用論の論理に基づき、充実した労働を確保するための手段的な休養、余暇活動として把捉されてきたといっても過言ではありません。
    そこで、本研究では、レジャー・レクリエーションを活動内容として把捉するのではなく、活動の意味に着目し、活動の「深さ」に着目して検討しています。具体的には、遊戯論を整理しつつ、「時間」「ウエルネス」「身体」「文化享受」等の観点から「深さとしてのレジャー・レクリエーション」について考究することを目的として進めています。

研究指導

現在、研究室には博士課程前期課程5名、博士課程後期課程4名、計9名の院生が所属しています。オンとオフの切り替えをしっかりしながら、和気あいあいと、しかし、よい論文を仕上げ、研究能力と高度な専門性を身に着けるべく日々切磋琢磨しています。
2013年以降、日本体育学会等の学会で、10名が学生研究奨励賞等の賞を賜りました。
一人ひとり、自らが研究能力と高度な専門性を身につけて、社会に貢献できる、人に仕えることのできる人を育てるべくこれからも尽力したいと考えております。

受験生へのメッセージ

研究は、長い道のりですが、自らの物事を見る目を磨き、物事を分析する自らの切り口を磨き、人に仕えることのできる道筋を示してくれます。
スポーツ界や社会において常識や自明とされていることの裏側に潜むメカニズムとダイナミズムを読み解く、その営みを通して、スポーツ界、社会のこれからのあり方を検討・模索する。そのことに興味・関心を持ち、大学院(博士課程前期課程(修士課程)、博士課程後期課程(博士課程))での研究を希望される方の連絡をお待ちしています(e-mail:tmatsuo@rikkyo.ac.jp)。また、研究室のホームページ
https://matsuozemi2016.wixsite.com/rikkyo)もご覧になってください。
※2023年インタビュー当時の情報です。

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