沼澤 秀雄 教授
(トレーニング科学、コーチ学)

教員インタビュー

2025/02/04

教員

研究内容

私の研究領域はスポーツ科学、コーチング学です。主にスポーツ選手の競技力向上をめざしたトレーニング方法と指導方法について研究を行っています。私は高校時代より陸上競技(短距離・ハードル)に打ち込み、大学では400mHを専門にしていました。日本代表には選ばれたものの国際大会に出場できなかったことが転機となり、指導者と研究者を志すようになりました。そして出身大学の体力測定研究室に嘱託として実習の手伝いをしながら、陸上競技部コーチとして3年間勤務し、また、同じ時期にプロ化したサッカーチームのフィジカルコーチを4年間経験して本学の一般教育部に教員として就任いたしました。そのような経緯から私の専門はスポーツパフォーマンス向上をめざしたトレーニング科学研究になります。現在は、大学院生とともに「トレーニング」に関わる研究、また、筋肉の収縮様式でエキセントリック(伸張性)収縮に関した基礎的なデータを収集したいと思っています。その他、東日本大震災の発生後には、放射能によって学校に行けなくなり、外遊びができなくなった児童の体格・体力を測定して、狭いスペースでもできる運動プログラムを検討しました。この状況は新型コロナウイルス感染症の拡大による自粛と似ており、身近なトレーニングが健康維持に貢献するということを示すことに応用できるのではないかと考えています。このように、トップアスリートだけではなく子供たち、さらには労働者、そして中高齢者を研究対象としてトレーニングの有用性について研究をすすめていきたいと思っています。
主な研究業績は以下のとおりです。
  • LUIS PENAILLLO,ANTHONY BLAZEVICH,HIDEO NUMAZAWA,and KAZUNORI NOSAKA(2013)
    “Metabolic and Muscle Damage Profiles of Concentric versus Repeated Eccentric Cycling”Medicine and Scienc in Sports and Exercise DOI:10.1249/MSS.0b013e31828f8a73 1773-1781
  • 沼澤秀雄、小林敬和、桜井智野風(2019)「児童期におけるバランス、リズム、タイミングを考慮した室内運動プログラム(BRTプログラム)の検証」、『フューチャーアスレティックス』第7号、pp11-17
  • 泉原嘉郎、沼澤秀雄(2025)『スポーツ・コーディネーションバイブル』大修館書店(印刷中)

研究指導

現在研究室にいる院生、卒業したOB・OGは、いずれもスポーツに関わる仕事をしています。あるいは将来、スポーツ指導者になることを目標にしています。
大学院の授業は『High-Performance Training for Sports』にある文献について抄読を行っています。トレーニング科学やコーチング理論はスポーツ指導者やスポーツ選手ばかりではなく、すべての生活者にとっても有益な情報が多くあります。例えば、中高年者の身体を動かさなくなって起こるサルコペニアは、筋肉量が減り老化を加速させます。筋肉を減らさないためにはどのような運動が良いのかを考えることは、これからの人生100年時代にとって重要なテーマになっています。
研究室は学生、院生に開放しておりますので、いつでも来ていただいて構いません。誕生日に贈られたコーヒーメーカーもありますので、お茶をしながらいろいろな話ができればと思います。

実践的な取り組み

社会的な活動としては、日本陸上競技連盟指導者養成委員会の副委員長として陸上競技の指導者養成に関わっています。その関係で、北京体育大学において国際陸上競技連盟IAAF CECS LevelⅠ講師資格を取得したのち、本学の派遣研究員としてシンガポールラッフルズ高等学校の外部講師として部活動指導やシンガポール陸上競技協会の陸上競技セミナー講師をさせていただきました。また、その時の受講者が、エキセントリック収縮によるトレーニングや翻訳でお世話になっているエディスコーワン大学のNOSAKA教授の研究室に院生として勉強しており、オーストラリアの地で、お互いにどこかで会ったよねと言って再会できたことは陸上競技と研究活動が結びつけてくれた出来事でした。また、本学部の安松幹展教授、加藤晴康教授とともに日本サッカー協会技術部フィジカルプロジェクト委員を務めており、日本サッカー協会認定のコーチ資格の講習会でコーディネーショントレーニングを担当しています。

受験生へのメッセージ

2018年11月にスポーツ庁長官は「科学的エビデンスに基づく『スポーツの価値』の普及の在り方に関する審議について」という課題を学術会議に依頼しました。これを受けて学術会議は委員会を設置し、審議した結果、次のような回答を出しました。これには現代のスポーツ科学に必要な研究者に対するメッセージが含まれていると思いましたので紹介します。
(1) スポーツは心身の健康や体力増強、学習・認知能力の伸長に好影響を与え、医療費抑制などで社会にも寄与する。障害者を含む多様な人々が参画し、画一的ではない実践を促すことが必要。
(2) 科学的根拠に立脚した練習やコーチングにより経験主体のスポーツに高度な合理性を与えられる。一方、研究と応用が人間の選別につながらないよう倫理面の配慮が不可欠。
(3) 競技人口が急増しているeスポーツなど、身体運動を超えた新たな価値に配慮が必要。ゲーム依存の防止策、組織やルールの確立などが急務。
(4) 政策に反映できる科学的根拠の共有が重要。各機関や現場で収集されたさまざまなデータを共有し包括的に分析するため、各省庁や諸機関、学協会などのネットワークを活用する仕組みが必要。

最後に2020年に開催されるはずであった東京オリンピックは新型コロナウイルス感染症の蔓延のために翌年に観客を入れない形態で実施されました。いまだに感染症は収束していません。また、地球の温暖化による自然災害、熱中症の増加、そして国同士の争いなど、我々は不確実で不安定な生活を余儀なくされています。そのような時に拠り所になるのは、科学的に認められた論文あるいは確かなデータです。そのために研究者は真摯に研究に向き合い、真理を追求した論文を社会に提供することが求められています。受験生の皆さんには「研究は生きていくために役に立つ」と言いたいと思います。
※2025年インタビュー当時の情報です。

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